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育毛剤などに入っているナイアシンアミド。どのような成分なのかご存じでしょうか?
ナイアシンアミドには皮膚のシミやしわを予防する働きがあるといわれている他、育毛効果も期待できます。
本記事ではその具体的な効果について解説し、ナイアシンアミドを摂取するためのおすすめ食材をご紹介します。
目次
ナイアシンアミドとはどんな成分?
(出典:(1)ナイアシン) (出典:(2)ナイアシンの働きと1日の摂取量) (出典:(3)ビタミン)ナイアシンアミドはビタミンBの一種です。「ニコチンアミド」、「ビタミンB3」とも呼ばれ、主に体内の代謝に必要な酵素の働きを補います。
ナイアシンアミドは水溶性ビタミンで、血液に溶け込んで運ばれ、余分なものは尿として体外に排出されます。「食事から摂取する」のはもちろん、「体内で合成する」こともできる物質です。体内での合成にはアミノ酸のトリプトファンが必要です。
ナイアシンアミドは「ナイアシン」と呼ばれることもあります。しかしナイアシンは「ナイアシンアミド」と「ナイアシン (ニコチン酸) 」の総称で、ナイアシンアミドと狭義のナイアシンは別の物質です。
ナイアシンアミドにはどんな効果がある?
ナイアシンアミドと聞くと外用薬や化粧品、サプリメントをイメージされる方もいらっしゃるでしょう。ナイアシンアミドは美肌をはじめ数多くの効果があるといわれています。
毛髪・頭皮に好影響を及ぼす効果があるともいわれており、薄毛の悩みがある方にとっても有用です。
ここではナイアシンアミドの効果についてご紹介します。
血行の促進
(出典:(4)水溶性ビタミンであるニコチン酸およびその関連化合物による生活習慣病の予防と治療を目的とする有効利用への試み) (出典:(5)育毛薬剤の開発と評価方法(これまでと今後))ナイアシンアミドには血行を促進する作用があります。
ナイアシン・ナイアシンアミドを総称するナイアシン(ニコチン酸)とその誘導体は、血流促進の改善のために医薬品としてすでに使われています。副作用としてかゆみやほてりを伴う「ナイアシンフラッシュ」がありますが、これはニコチン酸が血管壁におけるプロスタグランジンの生合成を促進し、それによって血管壁や血液量の増加が起きるためです。
またナイアシンアミド自体は生長促進物質とされ、植物の初期生育を促進することで知られています。
栄養吸収のサポート
(出典:(6)ナイアシンの働きと1日の摂取量) (出典:(7)マウスのタンパク質栄養状態と体毛タンパク質合成の関係について)ナイアシンには、糖質・脂質・タンパク質といった栄養素の代謝を助ける働きがあります。
顔の皮膚における老化を改善する
(出典:(8)ナイアシンアミド:老化した顔の肌の外観を改善するビタミンB) (出典:(9)顔皮膚のしわ形成に対する老化の影響)ナイアシンアミドは顔の皮膚の老化を改善することがわかっています。
しわ・黄変・弾性の低下が見られる肌にナイアシンアミドの成分を塗布する臨床試験では、しわの減少や弾性の改善が見られました。したがってナイアシンアミドを摂取すれば、皮膚の老化の対策・予防ができるといえるでしょう。
顔は表情筋の収縮によってしわが現れ、通常は筋肉の弛緩とともに消え去ります。しかし老化にともない皮膚の弾力性が低下すると、小じわとなって残ってしまいます。加齢にともなう自然なものとはいえ、気になる人もいるでしょう。エイジングケアを目指す人にとっては、ナイアシンアミドはとても役立つ成分です。
メラニンの取り込みを抑制する
(出典:(10)皮膚の老化および抗老化に関する研究-新規メカニズムと生体機能性有効成分)ナイアシンアミドには、表皮角化細胞におけるメラニンの取り込みを抑制する働きがあります。
表皮角化細胞とは表皮すなわち肌にある細胞のことで、表皮の最下層で分裂を繰り返して徐々に皮膚の表面へと移行していくものです。
メラニンは皮膚に存在する黒い色素であり、肌が紫外線を吸収すると生成されます。本来は光を吸収して肌の細胞を紫外線から守るものですが、紫外線が強すぎると過剰に発生してしまいます。
表皮角化細胞に取り込まれたメラニンは、シミやソバカスの原因になるものです。細胞の周期を停止させたり、細胞の増殖を抑制したりします。
つまりナイアシンアミドによってメラニンの取り込みが抑制されれば、シミやソバカスの予防につながります。
がんを予防する
(出典:(11)科学研究費助成事業 研究成果報告書) (出典:(12)ナイアシンとガンービタミンB3がDNAを守りその修復にも役立つ仕組みー)ナイアシンアミドは体内でニコチンアミドアデニンジヌクレオチドという物質に変わり、長寿遺伝子「SIRT1」の活性化を介してがんを予防することが研究されています。
がん患者にはナイアシン欠乏が見られるケースが多いといわれており、欠乏によってDNA損傷を受けた細胞の修復が遅れ、がん細胞化することがわかっています。
ナイアシン欠乏を解消するためには、食事でナイアシンアミドを摂取することが大切です。ナイアシンアミドを摂取してニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの濃度を上げると、がん遺伝子の発現が改善されることが指摘されています。
統合失調症を改善させる
(出典:(13)統合失調症のナイアシン療法) (出典:(14)ニコチンアミドによる妊娠高血圧腎症の新規治療法の開発)精神疾患のひとつである統合失調症の治療にナイアシンやナイアシンアミドが使われています。研究ではナイアシンを十分な高用量で与えると、一部の患者を有効に治療できる可能性があるとわかっています。
ナイアシンアミドは摂取すると脳内でセロトニンとなり、精神状態を安定させることから、統合失調症だけでなくアルツハイマー病やうつにも効果が見られるともされていることも特徴です。
またナイアシンは統合失調症の検査手段としても利用されています。通常は一度に多量のナイアシンを摂取すると、「ナイアシンフラッシュ」という皮膚の紅潮が現れますが、統合失調症の患者は皮膚の紅潮が見られない人がいるようです。これはナイアシンの欠乏を示しています。
しわ改善
(出典:(15)Asakado浅花堂スキンケア使用による目尻のシワ改善効果の検証腸脳力を活かした質の高い健康長寿実現のアプローチ)ナイアシンアミドにはしわ改善の効果が認められています。
近畿大学医学部の行った検証によると、ナイアシンアミド配合の保湿剤をヒトの皮膚に直接塗布したところ、しわ改善に対する有用性が確認されました。ナイアシンアミドがしわを改善するメカニズムについては、いまだ不明確な点も多くありますが、コラーゲンが関与している可能性が示唆されています。
コラーゲンは皮膚に弾力や柔軟性をもたらし、ハリを与える成分です。ナイアシンアミドにはコラーゲンの合成促進作用が認められることから、しわに対しても効果を発揮すると考えられます。
この他ナイアシンアミドのもつ細胞の生長促進効果が、複合的にしわ改善に作用しているとの説もあります。
ナイアシンアミドの毛髪・頭皮へ期待できる効果は?
(出典:(16)水溶性ビタミンであるニコチン酸およびその関連化合物による生活習慣病の予防と治療を目的とする有効利用への試み) (出典:(17)育毛薬剤の開発と評価方法(これまでと今後)) (出典:(18)ナイアシンの働きと1日の摂取量) (出典:(19)マウスのタンパク質栄養状態と体毛タンパク質合成の関係について)ナイアシンアミドには血流や生長を促す効果があるといわれており、頭皮環境を良好に保ち、育毛をサポートする効果が期待できます。そのため育毛剤の中にはナイアシンアミドを配合しているものもあります。
またナイアシンアミドにはタンパク質をはじめとする栄養素の代謝を助ける働きがあるため、タンパク質を主成分とする髪の毛を間接的に育てる効果があるといえるでしょう。
ナイアシンアミドの摂取量の目安
(出典:(20)ナイアシンの働きと1日の摂取量) (出典:(21)ナイアシンの食事摂取基準(mgNE/日)) (出典:(22)5. 2. 3.ナイアシン)ナイアシンアミドの推奨摂取量は定められていないため、ここでは参考までにナイアシンの推奨摂取量を紹介します。
ナイアシンの適切な摂取量は、男女や年齢によって変わります。ナイアシンはエネルギー代謝に必要なため「エネルギー1,000kcalに対する適切な量」が推定平均必要量とされ、これに「推奨量算定係数」と呼ばれるものをかけると推奨量を算出できます。
ナイアシンの推定平均必要量は1〜74歳の男女で4〜13mgで、推奨量は1.2をかけて5〜16mgです。年齢とともに必要な量が変化し、男性の方が多く必要としています。
また注意すべきことに、大量摂取が挙げられます。ナイアシンの大量投与によって消化器系や肝臓に障害を与えた例が報告されているためです。摂りすぎに気をつけましょう。
ナイアシンアミドの副作用
(出典:(23)日本人の食事摂取基準 (2020年版)) (出典:(24)水溶性ビタミンであるニコチン酸およびその関連化合物による生活習慣病の予防と治療を目的とする有効利用への試み)ナイアシンアミドの摂取によっていくつかの副作用が起こる可能性があります。
まずナイアシンアミドを過剰摂取した場合の副作用としては、消化器系や肝臓への障害事例が報告されています。具体的には消化不良や深刻な下痢・便秘、肝機能低下、劇症肝炎などです。
これらの副作用はあくまでナイアシンアミドもしくはナイアシンの過剰摂取時に起こりうるものであり、適量を長期間服用した際に起こるとする報告はありません。身体の不調を避けるためには、ナイアシンの推奨摂取量を守ることが大切です。
なおナイアシンを過剰摂取していない場合にも、副作用が起こる可能性が示唆されています。血流が促進されたことによる、皮膚のほてりやかゆみなどです。いずれも一過性のものであり、健康被害を及ぼすものではないとされています。
ただし症状が続いたり、重い症状が現れたりするようであれば、早めに医療機関を受診することが大切です。
ナイアシンアミドはどうやって摂取する?
食事からの摂取も効果があるといわれるナイアシンアミドは、どのような食品に含まれているのでしょうか。
ここからはナイアシンアミドが含まれる食材について紹介します。
ナイアシンアミドの摂取におすすめの食材
(出典:(25)食品成分データベース) (出典:(26)食品中ビタミンの調理損耗に関するレビュー(その 2) (ナイアシン,パントテン酸,ビオチン,葉酸,ビタミン C))ナイアシンアミドの含有量が高い食材として、まいたけが挙げられます。100gあたりの成分量は64.0mgで、ナイアシンアミドを含む他の食材と比較して豊富です。
他にはたらこやかつお節など、魚介類の加工品にもナイアシンアミドが含まれています。たらこであれば生食よりも焼いた状態、かつお節は削り節よりも裸節のほうに多く含まれているため、調理や加工の仕方によって違いが出る点がポイントです。
さらに含有量がトップ10位以内の食品を見てみると、インスタントコーヒー・米ぬか・落花生・パン酵母などさまざまな食品に含まれていることがわかります。20位以内にはまぐろ・しいたけ・ごまさば・かつおなどが並んでいることから、ナイアシンアミドはきのこ類や魚類に多く含まれているという特徴があるといえるでしょう。
ナイアシンアミドを摂取するにあたっては、注意する点がひとつあります。ナイアシンアミドはゆでることで成分が食品外へ流出してしまうと指摘されています。非加熱調理と加熱調理ではナイアシンの残存率に大きな差がないため、加熱しても問題ありませんが「ゆでる」以外の調理がおすすめです。
ナイアシンアミドに関するよくある質問
ナイアシンアミドに関するよくある質問としては、以下の3つが挙げられます。
それぞれ具体的に紹介します。
ナイアシンアミドに発毛効果はある?
(出典:(27)水溶性ビタミンであるニコチン酸およびその関連化合物による生活習慣病の予防と治療を目的とする有効利用への試み)ナイアシンアミドの摂取や塗布だけでは、直接的な発毛効果があるとはいえません。
ナイアシンアミドに認められるのは、AGAの原因に直接働きかける効果ではなく、血流改善や生長促進など健やかな頭皮環境へと導く効果です。そのため深刻な脱毛症状は改善できない可能性が高いでしょう。
しかしナイアシンアミドの摂取によって、育毛しやすい頭皮環境に整えることは可能です。とくに栄養バランスの乱れから薄毛になっている人には、ナイアシンアミドはおすすめの成分といえるでしょう。
ナイアシンアミドの効果的な摂り方は?
(出典:(28)育毛薬剤の開発と評価方法(これまでと今後))まずは食事から意識的にナイアシンアミドを摂取してみるのがおすすめです。身体は摂取した栄養をもとに作られるため、日頃の不摂生を自覚している場合にはぜひ実践してみてください。
ナイアシンアミドが豊富に含まれる食材については、「ナイアシンアミドの摂取におすすめの食材」の項でくわしく解説しています。食事のコントロールが難しい人は、サプリの利用も検討してみましょう。
またナイアシンアミドが配合された育毛剤やスキンケア剤などを利用し、気になる部分にピンポイントで補う方法もあります。自分に合った方法で続けてみましょう。
ナイアシンアミドの美容効果はどんな人におすすめ?
(出典:(29)Asakado浅花堂スキンケア使用による目尻のシワ改善効果の検証腸脳力を活かした質の高い健康長寿実現のアプローチ) (出典:(30)セラミドの皮膚における役割)ナイアシンアミドは薄毛や脱毛に対するエイジングケアとともに、肌のエイジングケアを行いたい人におすすめです。
ナイアシンアミドには体内のセラミドやコラーゲンの合成を促進させる効果が期待できます。肌のハリ感アップやしわの改善、保湿、皮膚バリア機能のアップを望む人にとって非常に有用です。
肌年齢が気になる人は、積極的にナイアシンアミドを利用しましょう。
ナイアシンアミドの効果についてのまとめ
ナイアシンアミドはニコチン酸アミドやビタミンB3ともいわれ、血流促進による頭皮環境の改善が期待できます。エイジングケアに有効な効果も報告されているので、上手に取り入れて健康に役立ててみてください。
食事で摂取するなら、まいたけやたらこ、かつお節などを意識して取り入れてみましょう。摂りすぎには注意することもポイントです。水溶性ビタミンで水に溶けてしまうため、焼く・蒸す・生で食べるなど水を使わない調理方法がおすすめです。
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