監修者一覧
年齢が上がるとともに前髪の地肌が透けて見えたり、頭頂部が薄くなったりするケースは少なくありません。なかでも40代~60代の男性がもつ髪の悩みの多くは、壮年性脱毛症と呼ばれています。
壮年性脱毛症はなぜ起こるのでしょうか。またAGA(男性型脱毛症)とはどのような違いがあるのでしょうか。この記事では壮年性脱毛症の基本情報から対処法まで詳しく説明します。
目次
壮年性脱毛症とは?
(出典:(1)老化と毛髪変化)
壮年性脱毛症とは文字通り40代~60代の壮年期にあたる男性にみられる薄毛・脱毛のことです。「毛根のミニチュア化」と呼ばれる現象により、太く硬い髪がやわらかく細い髪へと変化します。
とくに前頭部から頭頂部にかけての薄毛・脱毛が顕著です。なお女性も年齢を経ると薄毛が進むケースが多いものの、男性ほど脱毛が顕著になることは少ないとされています。
壮年性脱毛症とAGAの違いについて
(出典:(2)老化と毛髪変化)(出典:(3)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版)(出典:(4)髪の健康を考える〜美しい髪で過ごすには〜)
壮年性脱毛症とAGA(男性型脱毛症)の病態は同じものと見なされていますが、年齢による定義が異なります。
壮年性脱毛症が40代~60代の壮年期に起こる薄毛・脱毛を指す名称であるのに対し、AGA(男性型脱毛症)はどの年齢層でも用いられる名称です。ただしAGAも年齢が上がるほど発症率は高いため、壮年期の男性に多い点は共通しています。
壮年性脱毛症とAGAの原因は同じとされており、治療法もAGAと同じです。フィナステリドやミノキシジルなどのAGA治療薬や、LED・低出力レーザーによる治療が選択されます。
また生活習慣の改善や禁煙など髪や頭皮にいいとされる対策も、取り組む価値はあるでしょう。
壮年性脱毛症のメカニズム
(出典:(5)老化と毛髪変化)(出典:(6)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版)
壮年型脱毛症は髪が生え変わるサイクルである毛周期のうち、成長期が短縮されることで起こります。
毛周期は大きく成長期・退行期・休止期の3つに分かれています。成長期のあいだ伸び続けた髪は退行期に入ると成長スピードが鈍り、休止期で完全に成長が止まり、やがて抜け落ちる仕組みです。髪が抜けたあとの毛穴では毛根が再生し、ふたたび髪が成長しはじめます。
壮年性脱毛症は再生される毛根の規模が小さく、成長期が短くなる「毛根のミニチュア化」が特徴です。そのためやわらかく細い毛が増えて髪のボリュームが落ち、薄毛が目立つようになります。
さらに休止期に入ったまま成長期に移行しない髪も多くなるため、髪が生えにくくなり脱毛が進みます。
壮年性脱毛症の主な原因
壮年性脱毛症の主な原因は、ジヒドロテストステロンや老化です。それぞれを詳しく解説します。
ジヒドロテストステロン(DHT)
(出典:(7)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版)壮年性脱毛症の主な原因はジヒドロテストステロン(DHT)です。前頭部・頭頂部にジヒドロテストステロンが多く分布していると、薄毛・脱毛が起こりやすいとされています。
男性ホルモンは筋肉・骨の発達を促すだけでなく、ひげ・胸毛などの体毛を濃くするはたらきがあります。これはテストステロンが毛乳頭細胞に運ばれてⅡ型 5α-還元酵素と結びつき、ジヒドロテストステロンに変化することで起こる現象です。
しかし前頭部・頭頂部においては、ジヒドロテストステロンが正反対の作用を及ぼします。ジヒドロテストステロンが頭頂部・前頭部の男性ホルモン受容体と結びつくと、毛を生産する毛母細胞の増殖を抑え、髪の成長期を短縮してしまいます。
喫煙
(出典:(8)The relation of smoking, age, relative weight, and dietary intake to serum adrenal steroids, sex hormones, and sex hormone-binding globulin in middle-aged men)(出典:(9)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版)
喫煙も壮年性脱毛症の原因のひとつです。ハーバード大学の研究では喫煙者のジヒドロテストステロン値が、非喫煙者に比べて14%高いことがわかっています。
ジヒドロテストステロンは前頭部・頭頂部の男性ホルモン受容体と結びつくことで、髪の成長を妨げるはたらきをします。喫煙でジヒドロテストステロンが増えれば、薄毛・脱毛につながる可能性も高くなるといえるでしょう。
老化
(出典:(10)老化と毛髪変化)(出典:(11)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版)
老化を壮年性脱毛症の一因だとする意見もあります。
壮年性脱毛症は40代〜60代に見られる脱毛症です。また壮年性脱毛症と同じ病態の男性型脱毛症は、年齢が上がるにつれて発症率も高くなるという特徴があります。そのためジヒドロテストステロンだけでなく加齢による老化が、壮年性脱毛症に関与している可能性も指摘されています。
紫外線を浴びることで皮膚が老化する光老化も、老化現象の一つです。頭は紫外線が当たりやすいため光老化が薄毛・脱毛に影響していることも考えられるでしょう。
壮年性脱毛症の改善方法・ポイント
壮年性脱毛症の改善方法・ポイントは前項で挙げた原因に対処することです。主な改善方法・ポイントを次から紹介します。
睡眠を十分にとる
(出典:(12)生活リズムの確立と睡眠)(出典:(13)老年病に対する成長ホルモン補充療法の有効性に関する研究)
睡眠を十分にとることは壮年性脱毛症への対策につながります。睡眠中に分泌される成長ホルモンは、頭皮や髪の成長・新陳代謝に欠かせません。
成長ホルモンがもっとも分泌されるのは入眠直後のノンレム睡眠です。ぐっすりと深く眠るために睡眠習慣をつくりましょう。
人の体内時計は25時間であるのに対し1日は24時間なので、リセットをしないと入眠・起床時間がずれてしまいます。朝日を浴びたり食事・洗顔などで五感を刺激したりすることで、体内時計を合わせることが大切です。
生活習慣を見なおす
(出典:(14)髪の健康を考える〜美しい髪で過ごすには〜)(出典:(15)The relation of smoking, age, relative weight, and dietary intake to serum adrenal steroids, sex hormones, and sex hormone-binding globulin in middle-aged men)(出典:(16)禁煙の準備 – 禁煙7日前から行う、禁煙のコツを教えます!《準備編》)
生活習慣を見なおすことも、壮年性脱毛症の対策では大切です。栄養バランスのいい食事や良質な睡眠は、体を健康な状態に導き、髪や頭皮にもいい影響を与えます。
一方で髪のために避けた方がいい習慣もあります。たとえば喫煙は体内のジヒドロテストステロンを増やすため、壮年性脱毛症に対処したいならおすすめできません。煙草を吸いたくなったタイミングで歯磨き・洗顔などの代替行動をとり、できる範囲で喫煙の機会を減らしてみましょう。
紫外線対策をする
(出典:(17)紫外線)(出典:(18)老化と毛髪変化)
紫外線対策も壮年性脱毛症への対策のひとつです。紫外線を浴びると皮膚は光老化により衰えてしまうため、頭皮・髪にもよくないといえるでしょう。頭皮・髪の紫外線対策は以下が挙げられます。
- 外出時は帽子・日傘を使う
- 屋外ではなるべく日陰にいる
- 日差しの強い時間帯の外出は避ける
- 頭皮・髪用の日焼け止めを活用する
上記の対策を行い、紫外線を直接浴びることはなるべく避けましょう。
育毛剤・発毛剤を使う
(出典:(19)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版)
育毛剤・発毛剤を使う方法もあります。育毛剤・発毛剤には男性型脱毛症に対して一定の効果が認められた成分が配合されているので、日々のケアに取り入れることで壮年性脱毛症の改善も期待できるでしょう。
代表的な外用成分は以下です。
- ミノキシジル
- t-フラバノン
- アデノシン
- カルプロニウム塩化物
- ケトコナゾール
- サイトプリン
- ペンタデカン
育毛剤・発毛剤はドラッグストアでも手に入るので、購入の際は配合成分を確認してみましょう。
AGA専門クリニックを受診する
(出典:(20)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版)
AGA専門クリニックを受診するのもひとつの方法です。クリニックでは専門知識をもつ医師の診察や医療機関でのみ扱える薬剤・機材の使用など、壮年期脱毛症へのより高度な対策が行えます。
生活習慣の改善や市販の育毛剤・発毛剤の使用であまり効果が感じられない場合は、クリニック受診も選択肢に加えてみましょう。
まとめ
壮年期脱毛症は壮年男性に多い薄毛・脱毛を指す言葉です。AGA(男性型脱毛症)と原因・対策は同じですが、壮年期の男性に限定して用いられるかどうかが違います。
壮年期脱毛症に対処するためには生活習慣を見なおすとともに、育毛剤・発毛剤を日々の髪・頭皮ケアに取り入れてみましょう。またAGAクリニックを受診して専門的な治療を受けるのも選択肢のひとつです。
- 1).2).5).10).18).日本臨床皮膚科医会雑誌/24 巻 (2007) 3 号 p. 221-228
- 3).6).7).9).11).19).20).日本皮膚科学会雑誌/127 巻 (2017) 13 号 p. 2763-2777
- 4).14).順天堂醫事雑誌 59巻 (2013) 4号,p.327-330
- 8).15).The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 79, Issue 5, 1 November 1994, Pages 1310–1316
- 12).文部科学省|家庭で・地域で・学校でみんなで早寝早起き朝ごはん-子どもの生活リズム向上ハンドブック-(平成19年度)
- 13).老年病に対する成長ホルモン補充療法の有効性に関する研究 | 厚生労働科学研究成果データベース
- 16).e-ヘルスネット(厚生労働省)
- 17).環境省