監修者一覧
抜け毛が多い人は「自分は何かの病気ではないか」と不安に感じることもあるのではないでしょうか。
明らかに抜け毛が増えた場合は病気の可能性がありますが、まずは病気による抜け毛かどうかを冷静に判断する必要があります。
この記事では抜け毛が多いときに疑われる病気について紹介します。病気かどうかを判断するためのチェックポイントについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
抜け毛が多いときに疑われる病気
以前より明らかに抜け毛が増えた、髪の健康状態が悪いという場合は、脱毛症の可能性が考えられます。
抜け毛が主症状となる病気は脱毛症と呼ばれ、主な種類は以下のとおりです。
AGA (男性型脱毛症)
(出典:(1)男性型脱毛症のフィナステリド治療効果と アンドロゲン受容体遺伝子CAGリピート多型との相関性 )
AGA (男性型脱毛症) は、多くの男性にとって薄毛の原因となりうる病気です。
男性ホルモンの一種であるテストステロンが、還元酵素の5αリダクターゼと結合し、ジヒドロテストステロンという男性ホルモンが生成されることで引き起こります。
20代以降に発症して、薄毛の範囲が徐々に広がっていくのが特徴です。前髪の生え際から後退するケースと頭頂部から薄くなるケースの2種類で、人によっては同時に進行することもあります。
円形脱毛症
(出典:(2)日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017 年版)
円形脱毛症は、円形の脱毛斑が1〜複数個できる病気です。原因は明確に解明されていませんが、自己細胞が自らの組織を攻撃することで発症するといわれています。
円形脱毛症には、いくつかのタイプがあります。
蛇行型 | 側頭部から後頭部の生え際にかけて帯状に髪が抜ける |
全頭型 | すべての髪が抜ける |
汎発型 | 髪だけでなく眉毛や体毛まで抜ける |
治療はステロイドの塗布や紫外線照射療法、液体窒素を用いた冷凍療法などがあります。
びまん性脱毛症
びまん性脱毛症は、広範囲にわたって髪の毛が抜ける病気です。発症の主な原因は、以下が挙げられます。
AGAと同じく、びまん性脱毛症も徐々に薄毛が進行するのが特徴です。びまん性脱毛症の治療は、発毛を促す薬物療法や薬剤を頭皮に注入するメソセラピーなどがあります。
牽引性脱毛
(出典:(3)結髪性脱毛症の発生機序に関する考察)
牽引性脱毛は、髪が引っ張られ続けることで起こる抜け毛の病気です。同じ部分に負担がかかり続けることで、毛根を包んでいる毛包に炎症が起こり抜け毛を招きます。
日ごろからオールバックなどの髪型をしている人がかかりやすい傾向にあります。極力髪に負担がかからないヘアスタイルに変えましょう。
脂漏性脱毛症 (皮膚炎)
(出典:(4)病的皮膚への化粧指導,(5)脂漏性皮膚炎)
脂漏性脱毛症は、皮脂の過剰分泌により頭皮に炎症が起きて脱毛を誘発する病気です。
主に睡眠不足によるホルモンバランスの乱れ・洗浄力の高いシャンプーの使用・脂質過多の食事などの原因により引き起こります。
これらの原因によって皮脂が過剰に分泌されると、マラセチア菌が増殖して頭皮環境を悪化させてしまいます。
脂漏性脱毛症の治療方法は、マラセチア菌の数を減らす抗真菌薬や炎症を抑えるステロイド外用薬の使用などです。
抜け毛を引き起こす恐れがある病気
抜け毛を引き起こす恐れがある病気は、以下などがあります。
それぞれの病気の特徴を解説していきます。
膠原病 (こうげんびょう)
(出典:(6)膠原病の皮膚症状)
膠原病 (こうげんびょう) は、皮膚や血管などに炎症や変性が起こる病気です。
症状は多岐にわたり、その一種が脱毛症状です。そのため膠原病にかかったからといって、必ずしも脱毛が起こるわけではありません。
膠原病は自己判断によって改善するのが難しい病気です。明らかに抜け毛が増えた場合は、早めに病院を受診し適切な治療を受けるようにしましょう。
鉄欠乏症貧血
(出典:(7)鉄欠乏性及び免疫介在性の複合的病因を疑う小球性 低色素性貧血を呈したカニクイザルの1例)
鉄欠乏症貧血は、酸素を運ぶヘモグロビンの生成量が減少して抜け毛が増えてしまう病気です。主に体内の鉄分が不足することで引き起こります。
貧血の一種なので、鉄分をしっかり摂ることで回復が見込めます。ただし別の病気により貧血になっている可能性もあるため、安易に自己判断せず早めに病院を受診しましょう。
梅毒
(出典:(8)神戸医大に於ける梅毒患者の統計的観察並びに最近経験した顕症梅毒例について)
梅毒は性感染症の一つです。らせん状の細い糸のような形をした細菌「梅毒トレポネーマ」に感染した人との粘膜接触によって発症します。
また多量の梅毒トレポネーマに汚染されたものに触れることでも、傷口から体内に侵入するケースがあります。
感染するとしこりができるのが特徴です。発症後に症状はいったん消失しますが、4〜10週間後に抜け毛の症状が起こる性質があります。そのためしこりが見つかった段階で、早めに病院を受診しましょう。
薬の副作用による抜け毛
病気の治療のために服用する薬によって、抜け毛が増えてしまう恐れがあります。副作用が出る可能性がある薬は、以下などが挙げられます。
薬の副作用による抜け毛は個人差があります。そのため薬を処方された際に、どのような副作用があるのか医師や薬剤師にその都度確認しておきましょう。
病気による抜け毛か確かめる方法
病気による抜け毛かどうかは、抜け毛の本数や抜け毛の状態から確かめられます。
それぞれ詳しく解説していきます。
抜け毛の状態を確認する
(出典:(9)ヘアケアの科学)
自然に抜けた髪の状態を見れば、病気かどうかの判断ができます。確認する部分は抜け毛の毛根です。
正常な抜け毛の毛根は、米粒のような楕円形をしていて膨らんでいます。さらに毛根に白い半透明の毛根鞘 (もうこんしょう) と呼ばれる薄い膜が付いているのが特徴です。
一方で異常な抜け毛の毛根は、粘り気のある白い皮脂が付着しています。さらに毛根がない・形がいびつという場合は、病気の可能性があります。
そのほか抜け毛の髪質に注目しましょう。髪質を見ることで、ヘアサイクルが正常に機能しているかどうかを調べられます。
太く強い抜け毛であれば正常、細くて産毛のような抜け毛なら病気が疑われます。
1日の抜け毛本数を確認する
(出典:(10)養毛・育毛剤の評価法)
まず1日にどれくらい髪の毛が抜けるか確認しましょう。
目安として、1日100本抜ける程度であれば正常の範囲内です。正常であれば髪の毛が抜けた分は、新たに再生されて一定に保たれます。
ただし抜け毛は季節によっても変動するため、春や秋は100本以上抜けてしまっても正常な場合があるとされています。
抜け毛で病気が気になったら早めに病院を受診しよう
以前より明らかに抜け毛が多い場合は病気の疑いがあります。一部の病気は自分で治療を進められますが、ほとんどの病気は専門家による治療が必要です。
抜け毛の増加が気になってきたら自己判断で対処せず、早めに病院を受診しましょう。
- 1). Skin Surgery:17(2);P.80-86,2008
- 2). 日本皮膚科学会雑誌/127 巻 (2017) 13 号/P. 2741-2762
- 3). 山野研究紀要/1 巻 (1993) 1 号/P.79-80
- 4). 日本香粧品学会誌/44 巻 (2020) 2 号/P. 129-134
- 5). 日本医真菌学会雑誌 40巻(1999)2号
- 6). 杏林医師会 第49巻2号 151〜154 2018年6月
- 7). 日獣会誌 73 310~ 314(2020)
- 8). 皮 膚 ・第4巻 ・第2号 ・昭 和37年5月
- 9). 講座(シリーズ) “変わる”生活と消費科学 9
- 10). 順天堂医学/37 巻 (1991-1992) 4 号/書誌