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亜鉛は私たちの体にさまざまな効果をもたらしてくれる栄養素です。日々の食事やサプリで亜鉛の摂取を意識している人もいるのではないでしょうか。
この記事では亜鉛の効果や亜鉛サプリを飲むタイミングなどについて解説します。「亜鉛は薄毛予防の効果が期待できる?」、「亜鉛サプリを飲むタイミングはいつ?」といった情報が知りたい人は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
亜鉛サプリって?
(出典:(1)ここまで分かった亜鉛の免疫システムにおける役割)(出典:(2)消化管での亜鉛吸収機構に着目した亜鉛栄養の改善)
亜鉛は健康維持に欠かせない栄養素のひとつです。亜鉛は体内で合成することができないため、毎日の食事から定期的に摂取する必要があります。そのためには食事のバランスを整えることが大切です。
近年は過度なダイエットによる食事の偏りや食事量の減少、加工食品の摂りすぎ、薬剤の服用など生活環境の変化によって、亜鉛不足になる人が増えていると言われています。
亜鉛を補充しなければ推奨量を下回る可能性のある場合に、手軽に亜鉛を補充できるのが「亜鉛サプリ」です。
亜鉛とは?
(出典:(3)亜鉛解説)
亜鉛は必須微量ミネラルと呼ばれる栄養素のひとつです。体内に約2,000mg存在し、歯、骨、肝臓、腎臓、筋肉に多く含まれています。
体内の亜鉛のほとんどはタンパク質などと結びついて存在し、酵素反応の活性化や200種類以上の酵素の構成、ホルモンの合成、分泌の調節、免疫反応の調節、タンパク質の合成、DNAの合成など、多くの生理機能に関わっています。
亜鉛の効果
味覚を正常に保つ
(出典:(4)低亜鉛血症を伴う味覚障害患者に対する酢酸亜鉛水和物製剤投与に関する検討)
私たちは舌表面に多くある「味蕾(みらい)」という器官で味を感じます。
亜鉛の欠乏により味蕾細胞の入れ替わり時間の延長、構造・形態の異常が生じて、機能低下を起こすことが知られています。味覚障害は亜鉛欠乏症の症状のひとつで、唯一エビデンスのある治療は亜鉛補充療法です。
味覚障害で味がわからなくなると、食事をおいしく感じられなくなり、食欲低下や発育障害などの症状を引き起こす場合があります。
抗酸化作用
(出典:(5)酸化ストレスと抗酸化療法)
体内で発生した活性酸素は、多くの疾患の発症や悪化につながるとされています。よく知られているものとしては、老化、動脈硬化、肝障害、虚血再環流障害、糖尿病、白血病、肺気腫、アレルギー疾患、がんなどが挙げられます。
活性酸素の発生を抑制するためには、抗酸化物質と呼ばれる酵素が必要です。抗酸化物質はたんぱく質といくつかの金属から合成されており、亜鉛も必須成分のひとつです。
免疫力の向上
(出典:(6)免疫システムの概要)(出典:(7)亜鉛)
亜鉛は細菌やウイルスから体を守る免疫細胞を正常に機能させるためにも、必要とされる栄養素です。
亜鉛不足により免疫力が下がることや、さまざまな病原体に対する感受性が強くなることが知られています。
また亜鉛は鼻の粘膜内でウイルスの動きを直接阻害し、炎症を抑えることによって、風邪症状の期間を短縮・重症度を軽減できると考えられています。
発育や成長
(出典:(8)亜鉛)(出典:(9)亜鉛欠乏症の診療指針2018)
亜鉛は体の発育や成長、発達にも重要な栄養素です。
亜鉛の欠乏によって成長ホルモンの分泌が減少するため、とくに子どもの場合は、低身長症や体重増加不良などの発育障害につながります。男児の場合は性腺機能の発達にも影響を及ぼします。正常な発育を促すためには、十分な亜鉛の摂取は欠かせません。
髪の毛や皮膚の健康維持
(出典:(10)毛包と表皮の形成における亜鉛の役割を解明)(出典:(11)やっと表舞台に立てた金属一 亜鉛一)
亜鉛は髪の毛や皮膚の健康維持にも必要不可欠です。亜鉛が不足すると髪の毛や皮膚の形成に支障をきたし、皮膚炎や脱毛といった症状につながります。
体内に存在する亜鉛のうち、約20%は髪の毛や皮膚といった上皮組織に存在しており、不足により症状が出やすいことが知られています。
生殖機能の維持や改善
(出典:(12)亜鉛と生殖)
男性の前立腺と精巣には、高濃度の亜鉛が含まれています。そのため皮膚や髪と同様に、亜鉛不足の影響が出やすい臓器といえます。
亜鉛はテストステロンの合成や精子の形成などに関わる栄養素です。亜鉛が不足すると精巣での精子形成が阻害され、精子数の減少や血中のテストステロン濃度の低下、さらに精巣の萎縮などを誘発します。
精神の安定
(出典:(13)タンパク質と脳の栄養~うつ病とタンパク摂取~)(出典:(14)抑うつ症状とミネラル摂取との関係―断面調査の結果から―)
ある研究では亜鉛などのミネラルを多く摂取している人は、摂取が少ない人に比べて抑うつ症状が少ないことがわかっています。また亜鉛などのミネラルは「セロトニン」などの脳神経伝達物質の合成にも関わっています。
「セロトニン」はうつ病の治療薬にも利用されている成分です。うつ症状のある患者はセロトニン値が低いことがわかっています。
そのためセロトニンの原料であるタンパク質と、セロトニンの合成に関わるミネラルを多く摂取することは、うつ症状の緩和、精神的な安定につながると考えられています。
亜鉛が髪の毛に与える影響
(出典:(15)ホソカワミクロンが提唱する内外育毛ケア理論)(出典:(16)亜鉛欠乏症の診療指針2018)(出典:(17)男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版)(出典:(18)亜鉛とアゼラ酸によるヒト皮膚における5α-レダクターゼ活性の阻害)
髪の毛の80〜90%は「ケラチン」と呼ばれる18種類のアミノ酸が結合したタンパク質で構成されています。亜鉛はケラチンを合成するために必要とされ、髪の毛のインナーヘアケアに欠かせないミネラルの一つです。
また亜鉛は、男性型脱毛症(AGA)に対して良い影響を与えることがわかっています。AGAは男性ホルモンの「テストステロン」が活性度の高い「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変わり、男性ホルモン受容体と結びつくことで引き起こされる脱毛症です。
亜鉛はテストステロンからDHTへの変換を助ける「5α還元酵素」と呼ばれる酵素の働きを阻害する働きがあり、亜鉛を十分に摂取することで薄毛予防につながる可能性があります。
皮膚障害による脱毛症を防ぐためにも、亜鉛が不足しないよう注意が必要です。
一日に必要な亜鉛の摂取量
(出典:(19)亜鉛解説)(出典:(20)亜鉛欠乏症の診療指針2018)(出典:(21)A. 亜鉛)(出典:(22)「硫酸亜鉛」の 使用基準改正に関する概要書)(出典:(23)亜鉛欠乏症の診療指針2018)
健康の保持増進のために推奨される1日の亜鉛摂取量は、厚生労働省が「日本人の食事摂取基準」で定めています。年齢性別ごとの必要量(mg)は下表のとおりです。
年齢 | 男性 | 女性 |
1~2(歳) | 3 | 3 |
3~5(歳) | 4 | 3 |
6~7(歳) | 5 | 4 |
8~9(歳) | 6 | 5 |
10~11(歳) | 7 | 6 |
12~14(歳) | 10 | 8 |
15~17(歳) | 12 | 8 |
18~74(歳) | 11 | 8 |
75以上(歳) | 10 | 8 |
過剰摂取による健康障害を予防するために、耐容上限量も定められています。男性の耐容上限量は年齢別に、18~29歳は40mg、30~64歳は45mg、65歳以上は40mgです。女性の耐容上限量は、18~74歳で35mg、75歳以上で女性30mgです。乳児や子ども、妊婦、授乳婦に対する耐容上限量は、データがないため設定されていません。
令和元年の国民健康・栄養調査報告によると、男性平均9.2mg、女性平均7.7mgの亜鉛を毎日摂取しています。成人男女ともに平均摂取量は推奨量よりもやや少ないと報告されています。
とくに成長期にある乳幼児や小児、食事量の不足や消化吸収の低下などがみられる高齢者は亜鉛が不足しやすいです。これらの方は日頃から積極的に亜鉛の摂取を心がけると良いでしょう。
亜鉛の吸収
亜鉛の吸収率は人によって大きく異なり、8〜80%であるという報告もあります。これほど大きなばらつきが出る理由は、一緒に摂取した食物の量や種類が亜鉛の吸収に影響を及ぼすからです。
また十分な栄養下での亜鉛の吸収率は摂取量の約20〜30%ですが、亜鉛欠乏下では吸収率が上がり、亜鉛が過剰な状態では吸収率が下がることもわかっています。
亜鉛の吸収を妨げる成分のひとつが、小麦や豆類に含まれるフィチン酸です。ほかにもカルシウム、乳製品、食物繊維、アルコール、コーヒー、オレンジジュース、加工食品に含まれる食品添加物なども亜鉛の吸収を妨げます。
一方で肉類や魚類に多く含まれる動物性タンパク質、クエン酸、ビタミンCなどは亜鉛の吸収を促進します。
亜鉛の排出
摂取した全亜鉛の約70〜80%は大便から、約10%は尿から、残りは汗、唾液、髪の毛への取り込みによって排泄されます。
またアルコールの摂取、キレート作用(金属を結合させる作用)をも持つ薬剤の長期服用、糖尿病などの疾病によっても、亜鉛の排出量は増加します。
激しい運動や透析など強度の機械的刺激も汗や尿からの亜鉛排出が増加すると考えられているため、スポーツ競技者や透析を受けている人はとくに注意しましょう。

亜鉛サプリを飲むタイミング
(出典:(24)健康食品の正しい利用法)(出典:(25)医薬品的な用法用量について)(出典:(26)亜鉛)
亜鉛サプリは健康食品の中でも「栄養機能食品」にあてはまります。栄養機能食品は医薬品ではなく、あくまで「食品」として扱われているため、「寝る前に」といった摂取時期などを表示できません。
つまり亜鉛サプリは、いつ飲んでも構わないといえるでしょう。
しかし医薬品を服用している方は注意が必要です。亜鉛サプリはいくつかの医薬品と互いに働きかけ、影響を及ぼし合う相互作用を引き起こすからです。
例えば抗生物質であるキノロン系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬は、亜鉛と抗菌薬両方の吸収を妨げてしまいます。抗菌薬を服用している場合は、抗菌薬を飲む2時間前まで、もしくは摂取4〜6時間後に亜鉛サプリを摂取しましょう。そうすることで相互作用が小さくなります。
関節リウマチを治療中の方も注意してください。亜鉛は関節リウマチの治療薬のひとつであるペニシラミンの吸収と作用も低下させてしまいます。亜鉛サプリを摂取する場合は、ペニシラミン服用の前後2時間は避けるようにしましょう。
服用中の医薬品と亜鉛サプリの相互作用が気になる場合は、かかりつけの医師もしくは薬剤師に相談することをおすすめします。

亜鉛を多く含む食材
(出典:(27)亜鉛解説)(出典:(28)日本食品標準成分表 魚介類)(出典:(29)日本食品標準成分表 豆類)(出典:(30)日本食品標準成分表 野菜類)(出典:(31)米の亜鉛の栄養有効性の化学的・系統的解析)(出典:(32)穀類)(出典:(33)大豆発酵食品による亜鉛栄養改善の可能性)(出典:(34)日本型食生活の栄養学的検討(1))
亜鉛はさまざまな食品に含まれています。とくに亜鉛を多く含む食材は下表のとおりです。いずれの数値も「可食部100g当たりの成分量(mg)」を示しています。
動物性の食材
牡蠣 養殖 生 | 14.0 |
輸入牛もも 焼き | 6.6 |
うなぎの蒲焼き | 2.7 |
まあじ 皮付き 生 | 1.1 |
さば 生 | 1.1 |
植物性の食材
カシューナッツ フライ味付け | 5.4 |
きなこ 全粒大豆 黄大豆 | 4.1 |
アーモンド フライ味付け | 3.1 |
糸引き納豆 | 1.9 |
えだまめ 生 | 1.4 |
また亜鉛は日本人になじみの深い米や味噌からも摂取できます。
米の亜鉛量は、乾燥重量100gあたり1.96±0.20mgです。米を炊くと一緒に入れた水を吸って膨らみ、乾燥重量65gで茶碗に中盛り1杯150gのごはんになります。日常の摂取量から考えると、米は亜鉛の重要な供給源であることがわかります。
味噌の原料である大豆には、亜鉛の吸収を妨げるフィチン酸も多く含まれるため、亜鉛摂取には向かないと思えるかもしれません。しかし大豆発酵食品は発酵の過程でフィチン酸が減少することがわかっています。さらに消化管からの亜鉛吸収を増加させる可能性もあるとも考えられています。
日本人の食生活は亜鉛を含むミネラル分が不足しやすいです。ここで紹介した食材をメニューに取り入れながら、バランスの良い食事を心掛けましょう。
亜鉛の取りすぎには注意
(出典:(35)亜鉛)(出典:(36)ミネラル(微量ミネラル))
亜鉛自体の毒性は極めて低いため、通常の食事で過剰摂取になることはありません。
しかしサプリや亜鉛強化食品は過剰に摂取することによって、胃痙攣、吐き気、食欲不振、嘔吐、下痢、頭痛などの副作用を起こすことがあります。
さらに長期にわたって過剰に亜鉛を摂取すると、免疫力の低下、銅の欠乏、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の減少などを引き起こすこともあります。
亜鉛サプリを飲む場合は、製品ごとに定められた目安量を必ず守るようにしましょう。
まとめ
亜鉛は微量ながらも体の健康維持に欠かせない重要な栄養素です。日々十分に摂取したいところですが、食生活の乱れや偏りで不足することもあります。
亜鉛不足が心配になったときには、毎日の食事から摂取できるように食生活を見直すのが理想的ですが、どうしても難しい場合は亜鉛サプリも活用して体のメンテナンスに役立てましょう。

- 1).日本衛生学雑誌,68,145–152(2013)
- 2).Trace Nutrients Research 38:85-90(2021)
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- 4).亜鉛栄養治療10巻2号 2020
- 5).亜鉛栄養治療7巻1号2016
- 6).Oregon State University
- 7).26).厚生労働省「統合医療」に係る情報発信等推進事業eJIM
- 8).Oregon State University
- 9).16).20).23).日本臨床栄養学会雑誌 第40巻 第2号 (2018)
- 10).昭和大学歯学部口腔病態診断科学講座口腔病理学部門
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- 12).Vltarnins(Japan),82(10),539‐ 542(2008)
- 13).独立行政法人 農畜産業振興機構「畜産の情報 2017.9」
- 14).臨床研究センター 研究紹介
- 15).The Micromeritics No.61(2018)84-87
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- 28).文部科学省「日本食品標準成分表 魚介類」
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