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アトピー性皮膚炎は日本人の7~15%が罹患している国民病です。腕や脚の関節に症状が出ることが多いようですが、四肢に症状が出るだけでなく頭皮に症状が及ぶこともあります。
頭皮に生じたアトピーは薄毛の要因ともなるため、念入りにケアしなければなりません。
本記事では頭皮に生じたアトピーがなぜ薄毛を引き起こすのか、薄毛にならないためにどんな対処ができるのかを解説しています。アトピーや敏感肌が気になる方はぜひ本記事を参考に頭皮ケアを行ってください。
目次
頭皮のアトピーは薄毛の原因になる
(出典:(1)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018)
アトピーは薄毛の原因になる場合があります。とはいえアトピーが腕や脚に出る場合は問題ありません。問題は頭皮にまでアトピーが出てしまう場合です。
一般的にアトピーは四肢の関節などに多く発症するものですが、ときに頭皮にも症状が出る場合があります。
では頭皮のアトピーがなぜ問題になるのでしょうか。以下にいくつかの原因を解説していきます。
頭皮をかいてしまう
(出典:(2)毛髪・頭皮に優しい洗浄技術)
頭皮のアトピーが薄毛につながるのは、どうしてもかゆみに耐えきれずかきむしってしまうことが多いためです。かきむしると頭皮や髪の毛にダメージが蓄積して薄毛の原因となります。
アトピー性皮膚炎になると、IL-31という物質の影響によってかゆみを過敏に感じるようになります。IL-31によって引き起こされたかゆみは肌の表面だけでなく、角層など奥深くの神経まで達します。そのためかきむしらないでかゆみを我慢するのが非常に難しいのです。
特にお風呂上がりや寝る前など体温が上がったタイミングにはかゆみが強くなるため、かゆみを感じた部分を冷やすなどしてかきむしらないよう注意しましょう。
アトピーの炎症が毛根にまで及んでしまう
(出典:(3)毛と毛包の解剖・毛髪異常(AGA))
加えてアトピーが頭皮に生じると、炎症が毛根にまで及ぶ可能性があります。毛根には髪の毛が正常に生成されるための大切な細胞があるため、毛根までアトピーによる炎症が生じると健康な髪の毛が成長しにくくなってしまうでしょう。
炎症が生じると毛根周辺が赤みを帯び、膿が溜まって皮膚が盛り上がります。悪化すると膿が固くなり、発熱を伴う重篤症状が出ることもあるため、皮膚を清潔に保つことが大切です。
アトピーによる薄毛とAGAによる薄毛の違い
頭皮のかゆみやフケ
(出典:(4)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018)
薄毛が気になってきた場合は、頭皮にかゆみを感じたりフケが多くなったりしなかったか思い出してください。かいても収まらない強いかゆみはアトピーの特徴的な症状です。加えて頭皮が赤みを帯びていたり、フケが多く出るようになったりした場合にはアトピーの疑いが強くなります。
対してAGAは男性ホルモンの一種が原因であるため、かゆみやフケなどの症状がないまま薄毛が進行することが一般的です。ただし例外的に脂漏性皮膚炎を併発した場合にはかゆみやフケなどの症状も出ることがあります。かゆみやフケなどの異常が生じた場合には早めに医師に相談することが大切です。
まだらな薄毛
薄毛が頭のどの部位に生じたかもアトピーとAGAを見分ける要素です。AGAの進行にはいくつかのパターンがあり、一般的には頭頂部や生え際、剃りこみ部分などから進行していきます。
規則性がなくまだらに薄毛が生じた場合にはアトピーが原因である可能性を疑いましょう。
薄毛を予防するために頭皮環境を改善する方法
処方された薬や保湿剤を使う
(出典:(5)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018)
たとえ頭皮にアトピーが発症したとしても、身体の他の部位に使うのと同じようにアトピー用に処方された薬を頭皮にも使えます。
症状が出ている部分の髪の毛を分けて地肌に直接薬剤を塗りましょう。乾燥の刺激がかゆみを引き起こす場合があるため、保湿剤も併用するとより効果的です。
かゆくてもかかない
(出典:(6)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018)
アトピーのかゆみはかいても収まることがありません。むしろかきむしることでIL-31などのかゆみの原因物質が増えてさらにかゆくなる、という悪循環が起きてしまいます。またかきむしって炎症が起きると、皮膚のバリア機能が低下し別のかゆみを引き起こすことがあります。
そのためかゆくても決してかいてはいけません。冷やすことがかゆみの対処に効果的であるため、氷嚢や保冷剤を使ってかゆい部位を冷却しましょう。
規則正しい生活を心がける
規則正しい睡眠
(出典:(7)睡眠関連ホルモンの計測)
かゆみを予防し、健康的な頭皮環境をキープするために規則正しい生活を心がけると良いでしょう。特に睡眠は身体の新陳代謝リズムを保つために大変重要な役割を果たしているため、良質で十分な量の睡眠が必要です。
特に22時から2時までの「ゴールデンタイム」と呼ばれる時間は成長ホルモンが多く分泌されるタイミングなので、その時間に寝ると効果的です。良質な睡眠を得るため、寝る2時間前の飲食を控えることも心がけましょう。
バランスの良い食事
(出典:(8)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018)
脂っこいものばかり食べていると、肥満になったり顔の皮脂が増えたりします。頭皮にも同様の影響が及び、皮脂が多くなりすぎて脂漏性皮膚炎が生じる場合があります。
栄養バランスが偏らないように心がけ、意識的に脂肪分を減らしてビタミンを多く摂取するようにしましょう。食事だけではカバーできない、不足しがちな栄養素はサプリメントで補うこともできます。
頭皮の乾燥を防ぐ
(出典:(9)毛髪・頭皮に優しい洗浄技術)
頭皮の水分や皮脂は、刺激から頭皮を守る働きがあります。そのため頭皮が乾燥すると、わずかな刺激でかゆみが生じやすくなってしまいます。かきむしると頭皮環境が悪化し薄毛につながることもあるため、頭皮の乾燥を防ぐことが重要です。
頭皮までしっかり紫外線対策をすることや、自分の肌にあったシャンプーを使うこと、熱いお湯で頭を洗わないことによって乾燥を防げます。乾燥が気になる場合は保湿ローションを利用してケアしましょう。
毛穴詰まりを防ぐ
(出典:(10)洗浄料とその作用)
頭皮には毛穴が密集しており皮脂腺も多くあるため、毛穴詰まりが生じやすい環境にあります。加えて髪の毛が頭皮を覆っているため汚れが溜まりやすく、ホコリや古い角質などが毛穴をふさいでしまいがちです。
毎日汚れが溜まる場所ですので、念入りに洗うことが大切です。シャンプーをする前にブラッシングをしたり、ぬるま湯で2分ほど頭皮を洗うことで汚れをしっかり落とせます。シャンプーやコンディショナーを使ったあとには、丁寧に洗い流して頭皮に残らないようにも気をつけましょう。
自分にあったシャンプーを選ぶ
頭皮が乾燥している場合は保湿力重視
(出典:(11)洗浄料とその作用)
シャンプーは毎日の頭皮のケアに必要なものですので、自分に合ったものを慎重に選ばなければなりません。乾いたフケが多い場合は頭皮が乾燥しているため、保湿力を重視して選びましょう。
よくかいてしまう場合は殺菌剤の入ったものを
(出典:(12)フケ症に対する0.75%硝酸ミコナゾール配合シャンプーの有用性の検討, (13)オオミジンコ遊泳阻害試験による家庭用合成洗剤,柔軟仕上げ剤,シャンプー,コンディショナーの有害性評価)
かゆみやフケは頭皮で繁殖してしまった菌が原因である場合があります。その場合はミコナゾールやオクトピロックスなどの殺菌剤が入ったシャンプーを使うことで、頭皮環境の改善が期待できます。
かきむしってしまった場所の炎症が悪化するのを防ぐ役割もあるため、かかりつけの医師と相談しながら使うようにしましょう。
刺激が気になる場合は低刺激のものを
(出典:(14)洗浄料とその作用)
頭皮への刺激を少しでも軽減したい場合は、低刺激で頭皮に優しい以下のシャンプーがおすすめです。
中でもアミノ酸系のシャンプーは洗浄力と頭皮ケアのバランスが良いためおすすめです。泡立ちにくく、洗い流すのに時間がかかる欠点はありますが、頭皮環境改善のためですので泡立てネットなどを使ってひと手間かけましょう。「ココイル~」や「ラウロイル~」という成分がアミノ酸系シャンプーの主な成分です。
頭皮のマッサージをする
(出典:(15)Ritsuko Ehama 「Infuluence of Scalp Problem on Physical Properties of Hair and Their Prevention by Plant Extracts」)
頭皮のマッサージをすると血行が良くなるため、頭皮環境の改善に効果的です。
毛髪を生成するために働く細胞には、頭皮に張り巡らされた毛細血管から栄養素が運ばれます。頭皮の血行が悪いと必要な量の栄養素を毛根に運ぶのが阻害されてしまうため、薄毛を引き起こす要因となります。そのため頭皮の血行を改善することが、薄毛対策に有効なのです。
ただし汚れた手でマッサージしたり炎症の起きた場所をマッサージしたりすると、逆に頭皮環境を悪化させる要因となる場合もあるため注意が必要です。
マッサージを行う際には手を念入りに洗って清潔にしてからにしましょう。爪を立てたり強く刺激したりせず、優しく頭皮全体を動かすようにマッサージします。炎症が起きている場合には無理にマッサージせず、専門医にまず相談することが大切です。
薄毛 アトピーまとめ
頭皮にアトピーが生じると、強いかゆみや乾燥のために頭皮環境が悪化してしまいます。冷やすことや自分にあったシャンプーを使うことで対策しましょう。
かゆくてもかきむしることのないようにしてください。かいてしまうとかゆみがさらに強くなる悪循環に陥ってしまいます。お風呂上がりや寝る前などにはかゆみが強くなることが多いため、特に注意が必要です。
規則正しい生活を送り、頭皮マッサージを定期的に行うことで頭皮環境の改善に努めましょう。アトピーと上手に付き合って、薄毛を引き起こさないように気をつけてください。
- 1).4).5).6).8).日本皮膚科学会雑誌第128巻第12号
- 2).9).J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn. 特集総説47(1) 3-8(2013)
- 3).日本香粧品学会誌/42 巻 (2018) 2 号/ p. 93-97
- 7).生体医工学 46(2):169-176 解説特集:睡眠の生体計測技術
- 10).11).14)日本香粧品学会誌 Vol. 42, No. 4, pp. 270–279 (2018)
- 12).日本医真菌学会雑誌/38 巻 (1997) 1 号 / P. 87-97
- 13).水環境学会誌/27 巻 (2004) 11 号/ P.741-746
- 15).J.Son.Cosmet.Chem.Jpn. 52(1) : 16-23